旨さの秘密は食材に非ず
餃子No1
仲間うちで、どこの餃子屋が美味しいかと言う話題になったことがある。
「やっぱりあそこの餃子だよな」、「いや、あの有名な△△の餃子だよ」、「でも、結局王将の餃子が最強」などと’ 俺、旨い店知ってるぜ自慢大会’になった。
ところが、その一連のやり取りを聞いていた僕は、終始黙り込んでいた。
別に美味しいお店を知らなかった訳ではない。
ただ単に、母が作る焼き餃子を凌ぐお店には出会ったことがなかったのだ。
我が家の味
我が家の餃子作りは、大抵日曜日の16時頃から始まる。
母が具材を仕込み、父が皮に具材を包むのが役目だ。
大判の皮(40枚入り)を3袋用意し、1晩で120個も作る。
父は慣れたもので、はちきれんばかりの具材を器用に詰め込む。一方、具を詰めすぎて少し不恰好なものは大抵母が作ったものだ。
一般的に家庭で作る餃子の平均重量は25グラム前後だそうだが、我が家の餃子は35グラムもある。
肉がたっぷり入っていてジューシー、それでいてニラと生姜の香りがしっかりする。
そして皮はもちもちというのが我が家の味だ。
隠し味の正体
僕は友人に向けて「ウチの餃子が一番だよ」と、話した。
焼き方に関してはもちろんお店の餃子より劣るに決まっているが、味に関してはどこの餃子にも負けないと思う。
僕はなぜウチの餃子が美味しいのか考えてみて、1つの結論にたどり着いた。
それは、『家の餃子』という存在そのものが美味しいからだ。
父と母が並んで料理をしながら、たまに喧嘩をしても、最終的には仲良く食卓を囲み、この餃子は誰が作ったとか、今週はこんなことがあったとか話している雰囲気が味を良くさせるのだ。
やがて年月が経つにつれて、僕の餃子のお供は麦茶からビールに変わり、(父は今も昔もコーラのまま)歳をとったなと感じることもあるが、恐らく味そのものはこれからも変わることはないだろう。
1人暮らしを始めてからは母の料理を食べる機会は少なくなってきたが、僕は実家に帰る度に餃子をリクエストする。
今度は仲間に向けてではなく、感謝の意を込めて母と父に「我が家の餃子が一番美味しいよ。」と言おうと思う。