しょうじきしんどい

海老で鯛を釣ろうと思う。いや、海老はもったいないからミミズでいいや。

ピロートークのつづきは夢のあと

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「今晩は空いているかね?」

 

僕が1週間かけて準備した社内プレゼンが3割くらい進んだところで課長が鼻の穴を大きくしながら僕に質問を投げかけた。

 

どうやら、先月にぼくが受験したとある資格の合格祝いをしてくれるようだ。

 

ただ、少なくともプレゼンの最中にわざわざ人の話を遮ってまで聞く質問ではないし、業務時間外でありがたい(全然ありがたくない)話を聞く気もない。

 

この時点で僕のプレゼンに対するモチベーションは今月のトルコリラのチャートばりに暴落した。

 

プレゼンの残りの7割は何を話したかあまり覚えていないし、たいしたフィードバックもなかった。

 

僕は定時30分前からこそこそと帰宅の準備を進め、無事に定時退社をした僕は18:10には品川駅にいた。

 

品川駅に来たのは内定者ボーリング懇親会以来か。

 

ボーリングのアベレージが70台の僕が2週間に渡る猛特訓の末、155という驚異的なスコアを出し、3位に入賞することができた高輪レーンには良いイメージがある。

 

僕はいつもデートの時は待ち合わせ時間の20分前には到着するようにしている。

 

周囲の地理を把握し、これから行くお店の場所やデートスポットは事前に頭に叩き込んでおき、スマートにエスコートをするためだ。

 

「地理を制する者は戦も制す。」

 

毛利元就の「厳島の戦い」、羽柴秀吉の「松山城の水攻め」、真田昌幸の「第一次上田合戦」にあるように、歴史的な偉人は戦場の地形を把握することで、城を崩し巨大な勢力を打ち滅ぼしてきたのだ。

 

女性とのデートも同様に、地理を把握しどこに何があってどういった話をすればよいのかゴールまでの逆算をすれば、勝利はあとからついてくる。

 

彼女は少し待ち合わせの18:30より10分も早くやってきた。

待ち合わせ時間より早く来る女性は好感が持てる。

 

今日デートをするのは20歳の美容師で、過去に一度だけ髪を切ってもらったことがある。

 

彼女とは先週に約1年ぶりの再会を果たし、はじめて2人で食事をしたその日に僕の自宅で枕を交わしていた。

 

僕は事後のピロートークをとても大事にしている。

 

枕を交わす前は目の前の女の子を捕食するために歯の浮くようなセリフを言うときもある。

 

しかし、枕を交わした後はいい感じに力が抜けて、かっこつけずに一番本音を言い易い状態になるのだ。

 

お互い心を許しているというか、飾り無しというか余計なことは考えずにひたすら好きなものについて語ることができる。

 

そこで僕が無類の水族館好きということを話したところ、彼女もたまたま水族館が好きということで意気投合し、今回のデートをすることになったのだ。

 

2人で向かったのは「マクセル アクアパーク品川」。

 

この水族館の目玉はなんと言ってもイルカショーだ。

 

水のカーテンにプロジェクションマッピング・アートワークによる花火の演出を織り交ぜたショーはインスタグラムのタイムラインで一度は見たことがあるだろう。

 

僕たちはブラックライトに照らされた発光サンゴが放つ光で幻想的な空間の中にある「コーラルカフェバー」でお酒を買った。僕はカクテルで、彼女はフローズン生だ。

 

イルカショーが始まるまでの間、お酒も入り少しくだけた良い雰囲気の中でお互いのことを話し合った。

 

僕は彼女の裸は知っているが、高校のときの部活や、好きなアーティスト、家族のことなど彼女の内側のことは何も知らない。

 

話を通して僕と彼女はなんとなく似ていて、環境の違いはあるものの、人間のジャンル的には一緒だということがわかった。

 

会話の内容やツッコミのセンスなども僕と近くて、卓球のラリーが続くようにテンポ良く会話が進んでいくのがとても心地よかった。

 

プリンスホテル内の鉄板焼き屋で夕食を食べて、駅前の横断歩道で待っている時、僕は思い出したかのように彼女と手を繋いだ。

 

せっかく地理を把握していたのに、手を繋ぐのを忘れるという失態をかますくらいに会話に熱中してしまったのだ。

 

彼女は最初は帰ると言っていたが、電車のホームで「今日はもう少し一緒にいたい」と僕が言ったら、多少のグダグダはあったものの家に来ることを了承してくれた。

 

結局、池袋まで彼女を連れて帰り、一緒に夜の池袋を歩いた。

 

どこに行くわけでもなかったが、足取りはなんとなく僕の自宅の方向へ向かっていた。

 

深層心理では、お互いにけん制しあっている中、他愛もない話をして相手の出方を伺っている時間は非常にスリリングだ。

 

前回のアポで「この後一緒にアイス食べよ?」が「この後ウチでセッションしよう?」という意味にすりかわっていたのは実証済みなので、今回も僕が同様のカードを出したら割りとすんなりOKであった。

 

一度自宅で部屋着に着替えた後、コンビニでアイスを買って、手を繋いでまた自宅に帰った。

 

お互いに冷房の効いた部屋でアイスを食べさせあいながら、1週間ぶりに枕を交わした。

 

翌朝、また来週会うことを約束して、お互いに仕事のために部屋を出た。

 

お互いに眠い目をこすりながら仕事に打ち込むことになるが、ちょっとした充実感に満たされながら今日が始まる。